学び方は、三者三様です。
学習が「山登り」に例えられることがあります。
その例えが表すことは、
「登り口はどこであってもいいし、登り方も人それぞれ」
つまり、三者三様ということです。
学習が苦手なお子さんが本当に困っているのは、
「自分のことを周りの人がよくわかってくれない」
「自分でもどうしたらいいのかわからない」
ということです。
だから、怒られても、がんばれと言われても、自分ではどうしようもないし、
「やってもしょうがない」
「勉強をやれと言われるのがうるさい」
という感覚が強くなっていくのです。
声にならないことや、自分では何とも説明できないもどかしい気持ちが、人にはたくさんあります。
自分では伝えられないし、他人も理解してくれない。そのまま、時間が過ぎていきます。
個別指導の本当の強みは、一人ひとりのお子さんのことをよく見て、本人や家族、学校の集団生活の中ではわからないその子の声にならないことを拾って、その子なりの方法で学びを進めていけることです。
実際にあった3人の生徒さんの、全く異なる英語学習の方法について紹介します。
【A君のケース】
脳内での情報処理の特性として、視覚情報を取り入れ処理することが得意な人(=視覚優位)と、聴覚情報を取り入れ処理することが得意な人(聴覚優位)がいます。
A君は、 発達障害 (学習障害・軽度知的障害)の診断を受けていて、聴覚優位の生徒さんでした。聴きとれた音が、その単語の意味と結びついていて、英文を聴いたときも、ある程度英文の内容が類推できたようです。A君の定期テストの点数は100点満点で15点ほどでしたが、ほとんどリスニングで取った点でした。
しかし、15点という点数が表す通り、A君にとってアルファベットは単なる「謎の記号」に近い存在でした。
「聴きとった音」と「単語のスペル」とが、ほとんど結びついていなかったため、英文をノートに写してもらっても、単語の切れ目もあいまいで、文の最初の文字から最後の文字まで、隙間がなく並んでいるような状態でした。
A君には、彼の強みを活かして、聴きとれた音がどういう文字の配列で示されているのかを、1つ1つ確認しながら、発音練習をくりかえし、虫食い状態の単語を完成させる練習やフラッシュカードを使った練習を行っていきました。少しずつ、音と文字とが結びついてくると、彼の書く文字が力強さを持ってきました。やっと文字が意味を持ち始めたのです。そこからは、自分でも勉強に取り組めるようになり、少しずつ力をつけていきました。
【B君のケース】
中学2年生から不登校になったB君は、単語のスペルと意味、文法的な理解などを重視するタイプで、A君とは対照的な生徒さんでした。英文を分析して、構造を理解し、内容をつかむ練習を自分でも進めていたので、着実に力をつけていきました。かなりの長文も読み取れるようになっていましたが、思わぬ落とし穴がありました。リスニングテストで、ほとんど得点できなくなっていたのです。
その原因は、ふだんから音をあまり重視していなかったことに加えて、単語のスペルの暗記を重視するあまり、単語も自己流の音で覚えていったことでした。例えば、beautiful という語は、beau-ti-ful と3つの音節からできていますが、彼は be(べ) - au(アウ)- ti(チ)- ful(フル)というように、ローマ字式に覚えていたようです。最初のうちは、「正しい発音はこうだけど、僕はとりあえず、こういうふうに覚える」と区別していたようですが、単語の数が増えていくうちに、音の世界が崩れていったようです。
音節ごとの音を確認し、スペルと音とを結びつける練習を続けながら、音読練習を重ねていくことで、聴きとる力も徐々に回復していきました。
【C君のケース】
C君と出会ったのは、彼が中3の時でした。彼は中1の時から不登校で、英語の学習はほぼ経験がない状態でした。1年生の単元から少しずつ学習を始めていきましたが、単語のスペルはすぐに覚えられるし、発音も上手で、学習のテンポも上々でした。多くの生徒さんが苦労するところもスムーズに越えていけるのはどうしてなのか、と不思議な思いがしたものです。
その理由は、彼の趣味にありました。彼は、家で過ごしているときには、いつも洋楽を聴いていたようです。意味はわからないものの、聴いた歌を自分でも口ずさみ、時々歌詞をながめたり、日本語訳を読んだりしていたようです。
学習の中で、彼にとって印象的な(?)単語に出会うと、
「その単語って、この中で歌われていますか?」
と曲を聞かせてくれます。
「そうそう、この単語だね」
と答えると、今度は
「それじゃ、ここはどういう意味なんですか?」
と歌詞を示してきます。一通り解説すると、
「なるほど、そういうことか。」
と積年の謎が解けたような、満足そうな表情をしています。これまで混然としていたも
ののなかから、一つの単語が明確な情報として選び出され、整理されていったのです。
学習に興味が持てるようになると、自分でもどんどん進んでいけるようです。彼は、不登校で家にいる時間が長かったものの、集中的な学習を続けて、1年あまりで英検の3級を取得しました。
この3人は、それぞれ目指す目標地点も違っていましたし、登り口も、登り方も三者三様でした。共通しているのは、得意な点を最大限に活用して、弱点を克服していったところです。
一人一人の登り口を見つけて、どういう登り方をするのがいいのかを判断して、一緒に山を登っていくのが、私たちの役割だと思っています。みんな、ある地点まで到達すると、あとは一人でも登っていけます。
苦しい時期を過ごしているお子さんのお力に、少しでもなれたらと思っています。
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